水田のミミズ類に関する研究
水棲ミミズ類とは
- ミミズと聞くと、土の中にいる姿を思い浮かべますが、ミミズの仲間には水中(底)に生息する種もいます。体長は1 cm程度で陸生種に比べるとかなり小さく、ミミズと気づかないかも知れませんが、、、。
これら水棲ミミズ類の生息環境は、湖沼や河川などの淡水だけでなく海にも生息しており、魚の餌資源になるなど生態系機能として重要な役割を果たすだけでなく、水質の変化に敏感に反応し個体数や種組成を変化させるため、水環境の生物指標として利用されるなど有用性の高い動物です。また、下記するように水田に生息するミミズ類は雑草を抑制する効果も期待されており、早急に多様性や生態の解明が望まれています。
したがって、水棲ミミズ類の多様性研究はとても重要なテーマのですが、そう簡単にはいきません。それは、、、種同定の難しさです。日本の湖沼から報告されている水棲ミミズ類は40種(大高, 2018, 日本ベントス学会誌, 73: 12–34)と陸生種と比べると多様性は低いようで、頑張れば種同定できそうですが、種同定を行うには体表面に生える毛の形態や内部形態を観察する必要があり、(個人的感想ですが)素人が種同定をするにはかなり難しいです。 - *まだまだ始めたばかりで、何も成果は出ていません。
水田のミミズ相
- 水田土壌に生息する水棲ミミズ類は、頭部を土壌にツッコミ、土壌中の有機物を食べます。この時、尾部は土壌表面に出ているため、糞は土壌表面に排泄されます。水田土壌には雑草の種子が沢山埋まっているのですが、水棲ミミズ類の口は小さいため種子を食べることができません。したがって、種子は土壌中に埋没したまま、その上に糞が蓄積していきます。この糞の層は「トロトロ層」と呼ばれますが、「トロトロ層」が厚く堆積すると種子が発芽できなくなることが鳥取県農業試験場の研究によって示されています。つまり、水田に水棲ミミズ類が沢山生息し(20,000個体/m2;鳥取県農業試験場)、十分な厚さのトロトロ層を形成させることで、除草剤の使用を減らす(無くす)ことが期待できます(期待しています)。
- *鳥取県農業試験場、近畿中国四国農業研究センターとの共同研究です。
- 関連文献
- なし
DNAバーコーディング
- 上記したように水田のイトミミズ類は、除草剤を使わない稲作を可能にする潜在能力を持っています。したがって、それらの多様性や生態を解明することの重要性は理解してもらえるでしょう。しかし、そう簡単にはいきません。イトミミズ類は、体長数mm〜1cm程度と小型で、しかも、外見はどれも似た形態をしているため種同定が(私には)非常に困難です。この種同定の難しさが、生活史や群集構造という基礎データの取得を遅らせ、結果的に実用化の足枷となっています。
そこで、本研究室では、DNAデータに基づき種同定を行うDNAバーコーディングを用いたイトミミズ類の種同定を試みています。しかし、問題も分かってきました。下図は、卒業研究で鳥取県内の水田で採集したイトミミズ類と、DNAデータベースに登録されているイトミミズ類のデータを合わせて作成した系統樹です。イトミミズやフクロイトミミズのように種名が判明するサンプルがあった一方で、いくつかのDNAデータは一致するDNAデータがデータベースになく種名を特定することができませんでした。このことから、今後、DNAバーコーディングによる種同定法を確立するためには、DNAデータベースの充実化が求められます。
これらを踏まえ、鳥取県を中心に水田だけでなく河川などの淡水環境からもイトミミズ類を採集し、DNAデータの蓄積を目指しています。 - *鳥取県農業試験場、近畿中国四国農業研究センターとの共同研究です。
- 関連文献
- なし